歯周病は私たちの様々な全身の病気に影響を及ぼすのです。
私たちの健康と深くかかわりを持つ歯の病気、歯周病と全身のかかわりをじっくり考えてみてください。
気がつかないうちに手遅れになる歯周病ってどんな病気?
 
 歯周病は自覚症状があまりなく進行していく怖い病気。
慢性的に経過をたどっていくのが待徴です。
しかし、歯と歯肉の間にある歯周ポケットという歯周組織では、細菌と宿主との果てしない戦いが
繰り広げられていることを認識しておく必要があります。
歯周ポケットは、歯の周辺の歯肉や歯根膜が歯から離れはじめて、ちょうどポケットのように
なっている状態です。
歯肉と歯根の間には、歯肉溝というスペースがあり、健康であれば深さは3ミリ以内ですから
歯ブラシやフロスで歯垢や食べたもののかすを除くことができます。
しかし、ポケットが3ミリ以上になると、清掃しにくく、歯垢はだんだんたまっていきます。
それが原因となり、歯の周囲の組識をおかしはじめるのです。
歯根膜は歯根からはがれ、溝はどんどん深くなっていきます。
こうしてできた歯周ポケットから歯周病の症状は現れてくるのです。
 歯ぐきの充血も、歯みがきをした時の出血、歯のむずがゆさなどに気づいたら歯周病の
初期症状だと思って、できるだけ早く歯科医師の診察を受けることが重要です。
そのまま放っておくと歯ぐきのはれはひどくなり、出血だけでなく、うみがたまったり、そのために
口臭がひどくなっていきます。更に進むと歯ぐきがぐらついてくるのです。
 そんな歯周病の症状は、私たちの全身にも影響を与えはじめます。
普段の生活で疲れやすくなったり、食べものがおいしく感じられなくなったり・・・。
歯の病気だけでなく、そのポケットから幾多もの細菌が体の中に入ってくる可能性があり、全身の
健康にも影響を与えるのです。
 歯周病は歯を失う病気、とだけ考えていては危険です。
我々の体に様々な影響を与える全身にかかわる病気なのです。
歯周病は歯の病気だけでなく体の健康状態にも影響する
 
 1997年アメリカのノースキャロライナでタフツ大学のドクター・ガルシアは在郷軍人病院の
調査結果から歯周病が死亡率に与える影響について、こう講演しています。
「歯周病は殺人的である。フロスをせよ、さもなくば死だ」と。
衝撃的なセリフではあるのですが、歯周病が単なる歯の病気と考えるのは危険で、我々の全身の健康に影響をあたえる病気で
あることへの警告なのです。
 歯周病の原因は、プラーク(細菌)とりわけ歯周緑下プラークです。
しかし、一方で、それに対する人間の応答性も歯周病の発症と進行に深くかかわっているのです。
全身の病気、全身の健康状態は、このプラークに対する応答性に少なからず影響を与える。
例えば、糖尿病などの病気や喫煙などの生活環境が歯周病に悪影響を及ぼす原因であること。
また、逆に重症な歯周病が心臓血管疾患や、低体重児出産など、全身疾患の原因になりえる
ことも、1999年のニューヨークタイムスで大きく取り扱われているほどです。
歯周病が全身に及ぼす影響および全身因子が歯周病に及ぼす影響は、もっと生活の中で自覚
しなければいけないことなのです。
 例えば、歯に5ミリ程度の歯周ポケットがあるとするとその内面の面積は約72cm2になります。
それを全身の一部と考え、そこに細菌性の病変があると考え、皮膚や内蔵などの臓器にあると
想像すれば、それが全身に影響を与えると考えるのは当然といえるでしょう。
プラークは独自の生態系を形勢し、宿主の防衛反応から身を守ると同時に、プラークおよび
その構成要素への持続的な供給源にも成りえるからです。
 歯周病が全身の病気に影響を与えるメカニズムとしては、口腔内の細菌自体が他の臓器に
感染していく歯性感染症と、歯周病巣の炎症から起こる過剰に作りだされた因子、あるいは、
血管内の単球が血管を通って他の臓器に移行して影響を与えるということです。
 まず、歯性感染症ですが、特に感染性心内膜炎は、歯科治療と関係した重大な病気です。
その感染源としては、口腔、特に歯周ポケットがあげられ、実際、脳あるいは肝臓の患部から
口腔細菌が見つかっている例もあります。
また、老人介護施設では、肺炎を引き起こす呼吸器性病原菌が、重度の歯周病患者の
デンタルプラークから検出されること、それらの菌が院内感染することが示唆されています。
胃の疾患の病原菌が口腔内から検出されている例もありデンタルプラークが、これらの菌の
貯蔵庫となっている可能性が考えられています。
 また、心臓血管疾患症や糖尿病に関しても、歯周病が原因となる病気として考えられています。
歯周病患者において、歯肉の炎症が血液中の白血球の数と相関的に関係し、動脈硬化が
血液中の単球の血管への接着からはじまる。
歯周ポケットからの細菌が体内に慢性的に持続的に進入することが起こり、糖尿病は歯周病が
血糖コントロールに影響を与える可能性が示唆されていて、歯周ポケットによる菌血症が
血糖コントロールの改善を阻害すると考えられています。
●プラークはこうやって進入する●

好中球のバリヤーを突破したポケット内の
細菌は、潰瘍面から歯肉結合繊維の中に
進入する。
結合繊維内の血管に細菌、LPSが過剰に
生産されたカイトカイン、PGE2、あるいは
それらに刺激されたマクロファージが
入り込み、全身へと広がる。
歯と口腔内にあるプラークは歯周病の
ポケットから血管に伝わり全身へまわり、
私たちの健康に影響を与えていくのです。
>>>用語解説
LPS
   歯周炎の病原菌と考えられているグラム陰性嫌気性細菌の最外層の外膜に存在する
リポ多糖のことである。
LPSは多彩な生物学的活性を持ち、特に歯周組織においては単球に作用し、PGE2やIL-1の
生産を促進し、結果的に骨吸収活性を持つ。
サイトカイン
   単球などの免疫担当細胞をはじめとする種々の細胞から生産される生理活性物質である。
サイトカインの種類は豊富であり、一部の名称はインターロイキン(IL)で統一され、番号が
付けられている。
極めて微量でその作用を発揮し、異なるサイトカインで同じ作用を持っていたり、また相乗的に
働く。歯周炎局所で上昇されるものとして、IL-1、TNF-α、IL-6があげられる。
プロスタグランジンE2(PGE2)
   細胞の細胞膜にあるアラキドン酸から生成される生理活性物質である。
血管拡張や骨吸収、子宮収縮などの生活活性が知られている。
分娩促進剤、血管拡張剤として用いられている。
歯肉組織では主にマクロファージがIL-1βやTNF-α、LPSなどの刺激を受けて生産する。
歯肉の発赤、腫脹、歯槽骨の吸収に関与している。
単球(マクロファージ)
   単球(マクロファージ)は白血球の一つで、食作用を持ち、抗原を貧食し、自身の膜上に
その抗原を提示する機能を持つ。
また、さまざまな刺激に反応し、IL-1、IL-6、TNF-αなどのサイトカインやPGE2を生産する。
ストレスや喫煙なども歯の健康にとても関係する
 
 様々な研究により、歯周病に影響を与える全身の病気や生活習慣はいくつかあげられています。
その中でも、糖尿病と喫煙がその可能性を多くもつ要因と考えられています。
また、その他の侯補としては、社会心理的ストレス、骨そしょう症などもあります。
これらの全身の病気は歯周組織内の細胞に大きな影響を与え、歯周病の原因と考えられています。
 まず、糖尿病ですが、糖尿病患者の100人の中には23人の歯周病患者がいるという報告が
あり、糖尿病患者には、歯周病になっている人が多いのです。
 次に、喫煙ですが、タバコの中には、多数の毒素が含まれています。
タバコは全身だけでなく口腔内にも多大な影響を与えるのです。
喫煙により、歯肉は角化亢進し、線維性により、歯肉周縁が厚くなってくる。
喫煙は歯周病のリスクファクファクターであり、軽い喫煙者では、オッズ比で2〜3、ヘビースモーカー
では5〜6の割合で歯周病にかかっているといわれています。
そして、現在の人が常に感じる社会的
ストレスもまた、歯周病に影響を与えることが報告
されています。
プラークの量、年齢、喫煙、糖尿病などの今日、歯周病の原因と認識されている因子を考慮しても、
不健康な人は、健康な人に比ベストレスを多く感じているといわれています。
ストレスの程度とその対処能力が歯周病に影響を与え、今後の研究課題ともされているのです。
●歯周病に影響を与える全身の病気●
その影響度合
  オッズ比 リスクの有無
糖尿病 2.3 あり
喫 煙 2.05〜4.75 あり
社会的心理的ストレス 1.70 潜在的にあり
骨そしょう症 潜在的にあり
アレルギー 0.70* 不明?
貧血症 0.65* 不明?
 ストレスが歯周病に与える影響としては、心理的な原因により中枢神経が影響を受け、
免疫機能の持続性や生活習慣を変化させることが考えられています。
ストレスによるプラークコントロール、喫煙、食生活への変化など、歯周病と関連した生活習慣、
行動に与える影響も無視できない状況です。
ストレス下で、ブラッシングの回数の減少、内容の低下、タバコの本数が増加すると、歯周病に
とって悪い要因がどんどん重なっていき、悪循環を繰り返していくのです。
つまり、ストレスは歯周組織の破壊度を増加させる原因なのです。
 このように、歯周病は全身の健康に大きな影響力を持ち、逆に、全身の病気は歯周病の
原因にもなる。
歯の病気として気軽に考えている時代はもう終わった。
生活習慣の中から起こる歯周病という病気は、我々が健康な毎日を送る上で絶対欠かせない、
重要なファクターなのです。
歯の健康は、全身に大いに関係する。
毎日のデンタルケアは生活の基礎であり、トータルヘルスケアの一部なのです。

●全身の病気が歯の健康に与える影響●
  糖尿病 喫 煙 ストレス 骨粗鬆症
主な原因 高血糖状態 ニコチン 副腎皮質ホルモン エストロゲンの減少
白血球 機能低下 機能低下 機能低下 データなし
単球リンパ球 過剰反応 過剰反応 リンパ球増殖低下 エストロゲンレセプター
サイトカイン IL-1b,TNF-α,
PGE2上昇
データなし IL-1b,TNF-α,
PGE2低下
IL-6,IL-1β上昇
結合組織/血管 酸素上昇

破壊
活性酸素上昇

破壊
血行不良 骨形成の低下
 どんな病気でも直接的原困になるのは細菌ですが、その要因になるものとしては生活態度が
あげられます。
歯の二大疾患と言われるむし歯、歯周病も直接の原困はお口の中の細菌。
しかし、我々をとりまく生活環境も1つの要因であり「生活習慣病」ともいえるのです。
人はもちろんお母さんの体内では無菌です。
産道を通る時から感染がはじまり、成長、発育過程で、さまざまな菌の感染を受けながら、その人
個人の生態系ができあがります。
むし歯や歯周病の原因になる菌が、身近なところでは家庭内で感染しやすいのは当然で、遺伝的な
要因と食生活、嗜好が似るから仕方がないともいえます。
しかし、感染したからといってすぐにみんなが一斉にむし歯や歯周病になるわけではありません。
そこには、外的要因として個々のライフスタイルがあげられるのです。
不潔、食生活の不摂生、喫煙など、悪いライフスタイルや、それが原因となる身体の抵抗力低下に
よって発症してしまうのです。(グラフ1)
まず、自覚症状をしっかり把握すること。
歯や口にあるトラブルを認識することから始めなくてはいけません。
20代、30代対象の調査でも、歯周病の症状は若い世代にも常にみられています。(グラフ2)
それに対して、生活習慣と、歯周病など口腔の病気に対する意識があまりされていないのも
事実です。(グラフ4)
一人平均の残存歯は平均寿命に比べて低い(グラフ3)のも、この意識の低さが原困といえます。
 歯周病に対しては自分の意識をかえ、生活習慣の改善をはかることが急務。
よい生活習慣がお口の中を健康に保てる結果を生むことをもっと自覚しなければいけないのです。

>>>用語解説
オッズ比
   リスクファクターと疾患との結びつきの強さを表すものである。
ある疾患を持つ患者の中でリスクファクターを持っている人の割合で割ったものである。
この場合、骨吸収を起こした人の中で心臓血管疾患を起こした人数で割った値である。 オッズ比は、個人の疾患の可能性を予測するものではない。
IL-1
   強い骨吸収活性を持つサイトカインで、主に単球から生産される。
歯肉の炎症が強くなるとIL-1の歯肉溝滲出液中の濃度が大きくなり、歯周組織の破壊と
強く関係している。